第3章:Zephyrの性能・技術開発状況・産業利用状況の調査

(②2025年2〜4月飛行試験)

ブログ「HAPSの技術開発動向(HAPS解説シリーズ)」

· ブログ

エスジェットラボ合同会社
CO-CEO 高盛哲実

2.2. Zephyrテスト飛行・実証状況(2025年2〜4月飛行試験)

2.2.1.2025年2〜4月飛行試験の概要

2025年2月から4月にかけて実施されたAALTO社のZephyr飛行試験は、同機の長期連続飛行性能を示す重要な事例である。AALTO社は2025年5月1日付のプレスリリースで、Zephyrが2月20日にケニアを離陸し、67日間6時間52分にわたって成層圏を連続飛行したと発表している。また、この飛行ではオーストラリア領空を通過し、2026年の日本での実用化を目指していることも示された。

2.2.2.調査方法

本稿では、公開情報とFlightradar24の飛行ログをもとに、この飛行試験の内容を追跡した結果を整理する。なお、ここで扱う内容はAALTO社の非公開情報ではなく、公開情報に基づく観察と推定である。

2.2.3.飛行記録の確認結果

(1)機体の特定

2025年2月20日のケニア上空で、Zephyrの離陸記録が確認された。機体番号は「ZEPYR86」であった。

Section image

図3-2-1 Zephyr離陸直後

(2)離陸時の上昇特性と飛行性能

離陸後の上昇率はおおむね一定で、67000ft(約20100m)まで0.46m/s程度で上昇し、その後は徐々に高度を落として56000ft(約16800m)付近で下降が止まっている。これは、夜間にバッテリーのみで飛行している状態を示していると考えられる。飛行速度については、海面速度で約10knot(約18km/h)、成層圏では日中60knot(約108km/h)、夜間35knot(約63km/h)程度であった。

Section image

図3-2-2 離陸時の高度変化と飛行速度

Section image

図3-2-3 離陸時の飛行経路

(3)ケニア上空からの移動開始

2月27日20時(UTC)頃、Zephyrはケニア上空を離れて移動を開始した。

Section image

図3-2-4 2025/2/27 20:45 UTC

(4)モルディブ海域への到達

その後、3月1日にはモルディブ海域に到達している。約2日間でおよそ4000kmを移動した計算であり、この間の飛行高度は56200〜67600ft(約16860〜20280m)で比較的安定していた。速度のばらつきは風の影響によるものとみられる。

Section image

図3-2-5 2025/3/1 4:48(UTC) Maldives

Section image

図3-2-6 高度と速度の変化


(5)モルディブ海域での滞在
さらに3月1日から3月3日にかけてはモルディブ海域に滞在しており、飛行データ上は正常な飛行を継続していた。この滞在は、機体の点検、試験、あるいは時間調整のためだった可能性がある。

Section image

図3-2-7 2025/3/3 3:04 モルディブ海域

(6)バリ島沖への移動
3月9日から10日にかけては、バリ島沖の海域で飛行が確認された。モルディブ海域から約4600kmを移動したことになる。Zephyrの性能からすれば無風条件で3日程度でも到達可能と考えられるが、実際には6日ほどの間隔があるため、直線飛行ではなかったか、平均速度が落ちていたか、あるいはログ取得に欠損があった可能性がある。

Section image

図3-2-8 2025/3/10 2:37:4 UTCBALI

(7)セイシェル諸島海域への引き返し
その後、Zephyrは北上せず、3月14日にはセイシェル諸島海域へ戻っている。バリ島沖から日本近海へ向かうのではなく引き返したことになる。この海域ではしばらく滞在飛行を続けており、何らかの飛行試験を行っていたと考えられる。この時点では、夜間データの欠損はあるものの、機体は概ね正常に飛行しているように見えた。

Section image

図3-2-9 2025/3/14 13:36 UTC セイシェル諸島海域

(8)夜間高度の低下

ただし、セイシェル諸島海域に戻ってから取得できた夜間飛行データには変化が見られた。3月1日のモルディブ海域での高度変化と比較すると、日中の高度は大きく変わらない一方で、夜間の高度は約56200ftから約53000ftへと3200ft(約960m)低下していた。これは、ソーラーパネルの発電量そのものは維持されているものの、バッテリー容量の低下により夜間の高度維持能力が落ちている可能性を示している。

Section image

図3-2-10 2025/3/17 高度変化と飛行速度

(9)紛争地域への移動
さらに注目されるのが、3月27日以降の挙動である。ZephyrはそれまでソマリアとケニアのEEZ境界付近で飛行試験を繰り返していたが、その後ソマリア沿岸を北上し、同日21時30分(UTC)にはイエメン沖に到達している。

Section image

図3-2-11 イエメン沖

(10)コールサインの変化

このとき、3月16日時点では「Zephyr86」であったコールサインが、4月1日11時30分(UTC)時点では「5Y0980A」に変わっていた。報告書では、この変化について、軍事的な任務への転用やクライアントの変更の可能性にも言及しているが、これはあくまで推測の域を出ない。

Section image

図3-2-12 5Y0980AはAALTOの機体である

(11)追跡不能となった以降の状況
4月1日12時(UAT)以後は、機体を追跡できなくなった。ただし、AALTO社の発表では4月28日まで飛行を継続し、67日間の飛行を達成したとされている。したがって、機体そのものは飛行を続けていたが、Flightradar24上で追跡できなくなったと考えられる。

また、見かけ上は正常に飛行しているように見えても、夜間の飛行高度は民間機が飛行しないぎりぎりの水準まで低下しており、日の出前には51300ft(約15390m)まで下がっていた。

Section image

図3-2-13 Zephyrの飛行高度変化

このログからわかるように、バリ島沖からの飛行から夜間の高度はほぼ同じなので、もしも、4月28日時点でこの状態が保たれていれば、容易にケニアに戻れたはずであるので、さらにバッテリーの容量が悪化したのではないかと推測される。例えば、最初にcallの一つが故障して、さらにその後もう一つのcellが故障して夜間の高度維持ができなくなったというようなストーリーが推測できる。


3.2.4.飛行ルート全体から見た特徴

飛行ルート全体を見ると、春分前は赤道付近の南半球側、春分後は赤道付近の北半球側を飛行しており、全体としては太陽エネルギー利用の面でリスクの少ないルートを選んでいたことが分かる。

Section image

図3-2-14 Zephyrの全飛行ルート

3.2.5.飛行記録から読み取れる課題
それにもかかわらず、2022年の飛行試験と同様に、長期飛行時の夜間高度維持に課題が見られることから、報告書ではバッテリーまたは電源系の問題が依然として十分に解決されていないのではないかとみている。

今回の飛行試験は、67日間という記録そのものに大きな意味がある一方で、飛行経路、夜間高度の低下、追跡不能となった時期、コールサインの変更など、公開情報から読み取れる要素も多い。Zephyrが依然として世界最先端のHAPS(高高度疑似衛星)であることは間違いないが、実運用に向けては、長期連続飛行時の電源管理と夜間運用の安定性が引き続き重要な検討課題であることが、この飛行試験からもうかがえる。

以上

今後の続編予定

なお、本記事はHAPS解説シリーズの第3章にあたります。今後、以下のようなテーマで続編を掲載していく予定です。


第1章:HAPSとは?成層圏を飛ぶ無人機の概要と最新動向
第2章:HAPSの代替え実験が可能な有人機
第3章:Zephyrの性能・技術開発状況・産業利用状況の調査(① 2022年6~8月飛行試験)
第3章:Zephyrの性能・技術開発状況・産業利用状況の調査(②2025年2~4月飛行試験 )【今回】
第4章:HAPSの実利用・産業応用の可能性

どうぞお楽しみに!

本ブログに関するお問い合わせは、下記窓口までご連絡、ご相談ください。
•弊社サイト:「https://www.sjett-lab.com/」の「Contact us」の入力フォームより入力下さい。
•電子メール:contact@sjett-lab.com