エスジェットラボ合同会社
CO-CEO 高盛哲実
第3章:Zephyrの性能・技術開発状況・産業利用状況の調査
Zephyrは、HAPSの中でも最も先行して実証飛行を重ねてきた代表的な機体であり、その長期滞空性能と運用実績は、成層圏プラットフォームの可能性を考えるうえで重要な手がかりとなる。
一方で、超軽量構造、電力制約、運用環境への感受性など、長時間飛行を成立させるための技術的トレードオフも明確に存在する。
本章では、Zephyrの機体性能、技術開発の状況、さらに報道や公開情報から見える産業利用・運用上の評価を整理し、その強みと課題を俯瞰する。
1.機体諸元及び性能
表 3.1-1 Zephyrの期待諸元

Zephyrの機体諸元は、表 3.1-1の通りで、このデータと写真等から推定される翼面荷重(翼1㎡に掛かる重量)は、3kg/㎡程度であり、セスナ機67 kg/m²、グライダー25~35 kg/m²、パラグライダー4kg/㎡と比較してもかなり軽くつくられている。また、軽量化の為に機体の操縦系統は、ロール方向の制御バンクを与えた旋回を行うエルロンがなく、車輪もない。
従って、離陸は複数の人間が手作業で行うハンドロンチ(将来はカタパルトを使うかもしれない)、着陸は胴体着陸を行う。旋回は、ラダーと左右のプロペラの回転差を使って旋回を行う。
ソーラーパネルは、高性能なガリウムヒ素系のパネルを使っていると思われる。バッテリーはリチウム硫黄電池を使っており、小型軽量で大容量を可能としている。但し、このバッテリーは、充放電のサイクルがリチウムイオン電池に比べて短く(一般的には500回程度)急激に劣化する。
このことからバッテリーの劣化が始まってしまうとリカバリーに時間が取れず電力供給が突然停止してしまうような不具合につながる可能性がある。
過去のZephyrの機体重量は、45kg程度だったが現在は重くなって高度2万メートル付近を飛行する。
Zephyrを使ってミッションを実施する場合の参考としてその性能特性について箇条書きにしてみた。
- ペイロード装備重量:5kg程度
- ペイロード搭載可能な位置:主翼下面(平面アンテナ等)、取得リーディングエッジ(カメラ、小型センサー等)本体前面(カメラ、小型センサー等)
- ペイロード供給電力:公表されていないが、日中150W、夜間50W以下と思われる
- 飛行高度:日中赤道付近で20000~21000m、夜間17000~18000m
- 飛行速度:海面対気速度35km/h程度、成層圏(18000m)対気速度90km/h程度
- 連続飛行時間:60日程度
これらのデータは、正規にAALTO HAPS Limited(Airbusの子会社)から得た情報ではない。あくまでも公表値(ペイロード供給電力を除く)から得た物である。
また、飛行性能に関しては、Flightradar24に残されている飛行ログから算出した値を使っているが、これは赤道付近に限られた値であり、例えば東京(北緯35度)のような中緯度での飛行実績は米国での飛行記録以外ないので、飛行高度や供給電力は上記の値より落ちることが予想される。
2.テスト飛行例・実証状況
2.1. Zephyrテスト飛行・実証状況(2022年6~8月飛行試験)
2.1.1. 報道発表
Zephyrのテスト飛行・実証状況の報道内容に関しては、以下の団体から報道されている。(事故についても機密扱いではなく、公開されている)
表 3.2-1 報道発表

(1) TASK & PURPOSEの報道内容(2022/8/21)

図3.2-1 TASK &PURPOSE 「After 64 days, the Army’s drone thatwouldn’t die has died [Updated]」
https://taskandpurpose.com/news/after-64-days-the-armys-drone-that-wouldnt-die-has-died/
TASK &PURPOSEは、Airbus製の高高度太陽光無人機Zephyr について、米陸軍の試験の一環として64日間の連続飛行を行った後、墜落したと報道しています。記事のトーンとしては、飛行時間を更新し続けた象徴的な機体が失われたというニュース性が前面に出ています。
記事内では、追跡を行っていた外部情報(追跡データ等)を引用し、Zephyrが高度60,000〜70,000ft付近で通常飛行した後に大きく高度を下げ、最終的に墜落した可能性があること、また高速で落下したことを示唆するデータがあることが述べられています。
一方で、米陸軍(APNT/Space/APNT/CFT)およびAirbusの公式コメントとしては、墜落を断定する表現ではなく、予期せぬ事象により飛行実証が終了したという趣旨の声明が紹介されています。あわせて、人的被害はなく、1,500時間超の成層圏ミッションデータを分析中であり、機体回収とデータ解析の進捗により追加情報が得られる可能性があるという説明がなされています。
また記事は、Zephyrが超軽量・太陽電池+バッテリーで長時間滞空を狙う「成層圏プラットフォーム」であることを紹介し、今回の試験(6/15開始)がバッテリー容量と機体耐久性の検証を主目的としていたこと、さらに7月末に47日飛行のマイルストーンを達成し、その後も記録更新を続け、目標として言及されていた60日を上回ったことを述べています。
加えて、飛行は試験場上空に限定されず、他州や国外(中米、メキシコ湾越え等)まで飛行し得たこと、将来的には通信・レーダー・妨害等の多様なペイロード搭載が可能であることにも触れられています。
(2) AOPAの報道内容(2022/8/29)

図3.2-2 AOPA「Airbus Zephyr crashes short of endurance record」
https://www.aopa.org/news-and-media/all-news/2022/august/29/airbus-zephyr-crashes-short-of-endurance-record
AOPAの記事は、Zephyr 8が「壊滅的な故障」に遭遇し、有人機が保持していた世界耐久記録(64日22時間)にわずかに届かず飛行が終了したという整理で書かれています。あわせて、Zephyrが最大約70,000ftで数週間〜数か月の連続飛行を目標とする太陽光機である点、翼幅82ft・重量165ポンド強という極端な軽量設計であること、そして昼間に充電した二次電池で夜間飛行を成立させる(カーボンニュートラルな)運用について、航空系読者向けに分かりやすく説明しています。
飛行の経緯は、米陸軍APNT/Space CFTの公式説明を軸にまとめられています。6月15日にアリゾナ州ユマ試験場(YPG)から離陸して60,000ft超まで上昇し、米国南部〜メキシコ湾〜南米上空を飛行、その後、飛行開始から64日後の8月18日21:00頃(太平洋夏時間)に、YPG上空で「予期せぬ飛行終了につながる事象」に遭遇したため、試験キャンペーンを終了したという説明です。詳細は調査中で未公表としつつ、人員や他航空機へのリスクは発生しなかった点も明記されています。
記事全体のトーンとしては、事故原因の断定は避け、むしろ実証で何が達成できたかを前面に出しています。具体的には、「従来のUAS耐久記録(約26日)を2倍以上更新し、30,000海里以上を飛行したこと」に加え、「米国空域からの離脱〜国際空域・水上での運用」、「米国外でのデータ取得と直接ダウンリンク」、「衛星通信(SATCOM)による長時間のC2(7日間)と複数拠点からのC2デモ」など、運用上の“初”を列挙して成果を整理しています。総じてAOPAは、航空運用の観点で公式発表と達成事項を整理し、成果重視でまとめた記事、という位置づけです。
(3) IMechEの報道内容(2022/12/1)

図3.2-3 IMechE「Zephyr drone's unfortunate end little cause for concern afterrecord-breaking 64-day flight」
https://www.imeche.org/news/news-article/zephyr-drone's-unfortunate-end-little-cause-for-concern-after-record-breaking-64-day-flight
IMechEの記事は結論として、Zephyr 8の飛行が「不幸な結末」を迎えたとしても、過度に心配する必要はないという論調です。理由は、64日間という成層圏での長期飛行そのものが、記念碑的(monumental)な成功であり、機体喪失よりも、得られた実証データの価値が大きいという位置づけにあるためです。
記事ではまず、米陸軍の説明として、Zephyr 8が2022年8月18日にアリゾナ州ユマ試験場上空で予期せぬ事態に遭遇し、飛行不能に陥ったこと、人的被害や他航空機への損傷はなく、調査が開始されたことし、詳細は明かされていない点を押さえています。
そのうえで、成果面として、今回の飛行が2018年に26日弱で樹立したUAS耐久記録の2倍以上に相当し、米陸軍が「1,500時間の飛行時間は既知のすべての無人航空機の耐久記録を上回り、将来のミッション要件に情報を提供する」と述べていることを紹介します。さらに、30,000海里以上の飛行や、国際空域・水上飛行・衛星通信による長時間C2(7日)・複数拠点からの指揮統制デモなど、「運用上の初」が多数含まれた点も整理しています。
技術面では、25m級の翼幅にもかかわらず極めて軽量であること、また太陽電池で日中に発電し、夜間飛行のために電池へ充電するという仕組みが、この成果を可能にした工学的ポイントとして評価されています(記事内では太陽電池パネルや電池への言及を含む)。
そして記事の中核として、大学研究者(ウェスト・オブ・イングランド大学の研究者)のコメントを引用し、無人機であるがゆえに「限界まで飛ばして壊れるまで試せる」ことが、開発を加速させる利点だと述べています。あわせて、今後の改良の焦点として、成層圏の高放射線や「-50℃以下の極低温」といった環境ストレスが材料・システムに与える影響(例:脆化、水分侵入など)への対策が重要になる、という示唆も提示されています。
最後に、用途面として、軍事起点の文脈に触れつつも、将来的には災害対応、山火事管理、通信、地球観測などの民生利用にも言及し、長期的には応用が広がる見立てを示す内容になっています。
(4) Royal Aeronautical Societyの報道内容(2022/8/26)

図3.2-4 Royal Aeronautical Society「Zephyr – down but definitely not out」
https://www.aerosociety.com/news/zephyr-down-but-definitely-not-out/
RoyalAeronautical Society(RAeS)の記事は、物語性のある筆致で、「2022年6月15日のアリゾナ州ユマでの離陸から、約3か月にわたる『驚異的な飛行』」を描いたうえで、世界耐久記録(64日22時間19分)を破る数時間前に、Zephyr8(コールサインZULU 82)が急降下し、最終的に連絡断となったことを伝えています。
また、エアバス社と米陸軍の声明を引用し、「多くの目標を達成した後、飛行を終了する事態になった」、「1,500時間超のデータ解析中」といった形で、原因が意図的に曖昧な表現で公表されている点にも触れています。
記事の中核は、「なぜHAPSが注目されるのか」を航空宇宙コミュニティ向けに整理している点です。HAPSは、衛星よりも低コストで、同じ地域の上空で長期にわたり監視・通信を継続でき、衛星のように燃料を大量消費して軌道変更するのではなく、比較的柔軟に再タスク(別地域へ移動して任務変更)できること、さらに地上へ回収して機器をアップグレードできる点が利点として述べられています。
一方で制約として、「太陽電池式ゆえに日照が必要で高緯度が苦手」、「超軽量構造ゆえにペイロードに制約がある(ただし小型化トレンドで緩和され得る)」、「発進・回収時の気象条件(乱気流・悪天候)が重要である」といった点を挙げています。
「何が悪かったのか?」については、確証はないと断ったうえで、ADS-B軌跡等から、向かい風などで対地速度が極端に低下した可能性や、成層圏の乱気流・強風が致命的影響を与えた可能性に触れています。別の仮説として、長期運用による電池(リチウム硫黄電池等)の限界にも言及しています。
最後にRAeSは、今回の飛行が「後退」であることは認めつつも、国際空域・水上飛行、複数拠点からのSATCOMによる見通し外のC2(コマンドアンドコントロール)、米国外でのデータ取得と直接ダウンリンクなど、運用概念の検証として大きな成果があった点を強調し、総括として「墜落したが、絶対に終わりではない」というメッセージで締めています。
2.1.2. 報道のまとめ
今回取り上げた4つの報道(TASK& PURPOSE/AOPA/IMechE/Royal Aeronautical Society)は、同じ出来事(Zephyr 8の64日飛行とその終了)を扱いながらも、“何を重視して伝えるか”が明確に異なる点が特徴です。
(1) 各報道機関の「見せ方」の違い
- TASK & PURPOSE:軍関連ニュースとして、墜落・追跡データ・軍/Airbus声明を中心に扱い、ニュースとしての事件性を強める構成。
- AOPA:航空運用の観点で、軍の公式発表に沿いながら、達成した“運用上の初”(国際空域・水上飛行、SATCOM C2等)を整理し、成果重視でまとめる。
- IMechE:工学・信頼性の観点から、機体喪失よりも得られたデータ価値と改善余地を強調し、「過度に心配する必要はない」という論調。
- RAeS:航空宇宙コミュニティ向けに、HAPSの意義・制約・原因仮説まで含め、総合的に論評するスタイル。
(2) 報道から整理できる「事実関係(読み取れる範囲)」
報道横断で整理すると、少なくとも以下が読み取れます。
- 米陸軍ミッションによる飛行で、極秘任務だった。
- 墜落時刻は 2022年8月19日(UTC)4時頃。
- 5万ft付近からトラブルが発生し、4万ftから急激に高度が落ちた。
- 原因については、記事上で 乱気流による空中分解説/バッテリー不具合説など複数の見方。
- 人的被害や他航空機との接触被害はなかった。
- 「失敗(墜落)」として扱いつつも、将来性については期待が高く、楽観的な意見が多い。
- 機体のコールサインは「ZULU 82」。
(3) 記事間で注意すべき「誤記・表記揺れ」
ニュース記事の中には、表記が誤っている可能性のものもあり注意が必要です。具体的には、以下の通りです。
- 「ZephyrS」の記述があるが、「Zephyr8」の誤り(ZephyrSは1世代前)
- 「リチウムイオン電池」の記述があるが、「リチウム硫黄電池」の誤り
2.1.3. Flightradar24からZephyrの飛行記録の特定
Flightradar24とは?
Flightradar24とは、航空機が発信する ADS-B信号 などを受信し、飛行中の航空機の位置・高度・速度・航跡 を地図上で表示するサービスです。(https://www.flightradar24.com/)
民間機を中心に、対応している航空機の現在位置や過去の飛行記録を確認できます。
航空ファンだけでなく、事故・異常飛行の状況確認や、飛行ルートの分析にも使われます。
報道情報から、2022年8月18日~19日アリゾナにZURU82という航空機が飛行していたかFlightradar24のプレイバックを使って探したところ飛行記録が見つかった。(Flightrada24の有料会員が閲覧できるのは過去1年以内のログに限られているため、この飛行記録は、2023年8月以前に収集したものである)

図3.2-5 2022/08/19 00:02 (UTC) 2022/08/18 17:02(MST)
Zephyrが確認された。飛行状態に異常は見られなかった。

図3.2-6 2022/08/19 02:35 (UTC) 2022/08/18 19:35(MST)
2時間30分経過後、高度は約7,000ft(2,100m)降下している。飛行状態に異常は見られなかった。

図3.2-7 2022/08/19 04:07 (UTC) 2022/08/18 21:07(MST)
さらに、約1時間30分経過後に5,000ft(1,500m)降下している。飛行状態に異常は見られなかった。

図3.2-8 2022/08/19 04:52 (UTC) 2022/08/18 21:52(MST)
さらに約45分経過後に5,000ft(1,500m)降下している。一見すると飛行機は正常に飛行しているように見えるが、機体の向きがめまぐるしく変化しているように見え、降下率も上がっており異常である。また、飛行高度は本来、夜間でも60,000ft前後を維持するのだが、50,000ftと他の民間航空機の飛行高度に近いうえ、降下が止まる気配がないので非常に危険である。これより高度が下がると、機体も対流圏の気流の影響を受けるため、機体姿勢を維持することも難しくなる。

図3.2-9 2022/08/19 5:00 (UTC) 2022/08/18 22:00(MST)
7分後の高度が4,635ft(1,390m)となっており、墜落したと思われる。ADS-Bの記録高度は気圧高度計の値が表示されており、2か月間の飛行であるため、高度計の誤差がかなりあると思われる。従って、この時点で機体は墜落していると考えられる。

図3.2-10 時間経過(アリゾナ時間)に対する高度変化(m)
日照がなくなる18:00から19:30にかけては、20,350mから18,440mまで通常運用で徐々に高度を落としていく。18,440m(60,000ft)に達すると、通常は高度を維持するために推力を上げ、翌日の日照までバッテリーだけでこの高度を維持するが、18,000mを切っても高度は徐々に落ちている。さらに15,000mを切ると急激に高度を落とし、5,000m付近以下では実際にはあり得ない数値になっている(ADS-Bに致命的な破壊が起きたのではないか?)。このときの時刻は21:57である。

図3.2-11 降下率を示したグラフ
降下率を見ると、非常に興味深いことが分かる。19:30(高度18,000m)までは-0.3~-0.4m/sで降下している。その後、20:45(高度17,500m)までは-0.14~-0.18m/sと降下率が低くなっている。ところが、16,000mまでは降下率が-0.5m/sと平常時よりも高くなっており、16,000~15,000mまでの降下率は0.2~-1.9m/sと不安定である。そして15,000m以下では、加速度的に降下率が上がって飛行データが停止している。
2.1.4 データから推測される飛行状態
(1)正常な飛行ができなくなったと思われる時間と高度
高度60,000ft(18,000m)を切った19:50以降だと思われる。この時刻以降、しばらく降下率が小さくなったのは、Zephyrが高度60,000ft(18,000m)以上を維持しようと推力を上げたからであると思われる。しかし、-0.1~-0.2mという非常に緩やかな降下が続いていることから、明らかな推力不足である。
つまり、この時点で機体に何らかの異常が発生していたことになる。
(2)推力が完全になくなったと思われる時間と高度
20:50頃、高度にして56,800ft(17,300m)以下では降下率が-0.5m/s程度となっており、この値がZephyrの成層圏において推力がなくなった滑空時の降下率と思われる。
(3)気流の影響を受け始めた高度
52,200ft(15,850m)からは降下率の変動が顕著になっていることから、この高度以下では対流圏の影響で上下方向の気流が発生していると思われる。Zephyrはピッチングを起こしていると思われる。ただし、滑空速度はあまり変化していないので、偏西風のような強い気流は起きていないと思う。
(4)50,000ft(15,000m)以下で何が起きたか?
急激な降下が起きていることから、墜落か急降下が起きている。空中分解と考えることもできなくはないが、ADS-Bの信号が50,000ftを切っても届いていることから、電装系が生きている状態で急激な降下になっており、空中分解であれば空気抵抗でもっとゆっくり落ちてくるのではないか、との見方から、空中分解(ただし機体の一部が脱落した可能性は否定できない)というより、墜落またはスパイラルダイブではないかと思う。
50,000ftを切ったところで、(自動か手動かは判断できないが)安全を考えた緊急着陸処理だったものの、緩やかな着陸には至らなかったのではないかと考えられる。これはZephyrのようなラダーとエレベータしかない機体にありがちなことだが、ラダーを切っただけではノーズが下がってしまい、スパイラルダイブ(きりもみではない)を起こしてしまう。スパイラルダイブは、らせん状に機体が旋回しながら急降下を行う飛行で、揚力を旋回方向に向けて急降下する飛行である。脆弱な機体は、その遠心力に持ちこたえることができず、空中分解してしまうこともある。
また、失速の可能性だが、失速が起きるときはノーズが大きく上がった場合であり、そのような急激なピッチングが起きたとも思えない。仮に失速が起きた場合は、きりもみ状態になる場合があるが、Zephyrのような軽量な機体で翼が破断されない限り、きりもみ状態にはなりにくい。飛行ログから、高度を落としている最中に時計回りに旋回しているように見えるので、ADS-Bがある程度正しいデータを送っているのなら、スパイラルダイブで地上まで落ちてしまっていると考えるのが最も妥当な推測である。
仮に機体が損傷していないと仮定して、このような墜落を避けるには、降下率に合わせてエレベータを調整し、ノーズが下がりすぎないようにプログラミングをする必要がある。しかし、飛行の専門家であればこの程度のプログラミングは容易であるため、予期しない電源系のアクシデント(例えば、ラダーやエレベータの電源が落ちてロックしてしまったなど)の影響で、このような事態になったのではないかと思われる。
(5)推測されるZephyrの不具合
徐々に推力を失っていることから、バッテリーセルの一部が不具合を起こしたか、充電システムの不具合で十分に充電されなかったと考えられる。日中は正常に飛行しているので、ソーラーシステムや通電回路に不具合は起きていないと思われる。疑問に思うのは、充電が一部のセルで十分に行われていないのなら、バッテリーの充電状況をモニタリングして日没前に着陸させるべきであり、なぜそれをしなかったのかという点である。降下率を下げすぎると機体に負担がかかるのは承知だが、-2m/s程度の降下率で比較的大きな円を描きながら着陸させるのは、それほど難しいことではないし、機体への負荷も大きくない。
判断が遅れたのか、そもそも不具合を見落としたのか。あるいは、最初から正常な状態での回収を想定していなかったのか。
いずれにしても、マニューバが十分になされていないのではないかと思われる。
最後の急激な降下は、ADS-Bのテレメトリ以外がすべて落ちてしまい、サーボがシャットダウンポジションに移行したのかもしれない。しかし、シャットダウンポジションの設定も、十分な検証を行って設定したとは思えない。この飛行試験から2025年1月までの2年5か月間、まったく飛行を行っておらず、本来なら機体に改良を加えたのであれば、安全高度やスケールモデルを使った飛行試験を行っていてもよさそうだが、そのような情報はなかった。
以上
今後の続編予定
なお、本記事はHAPS解説シリーズの第3章にあたります。今後、以下のようなテーマで続編を掲載していく予定です。
第1章:HAPSとは?成層圏を飛ぶ無人機の概要と最新動向
第2章:HAPSの代替え実験が可能な有人機
第3章:Zephyrの性能・技術開発状況・産業利用状況の調査(① 2022年6~8月飛行試験)【今回】
第3章:Zephyrの性能・技術開発状況・産業利用状況の調査(②2025年2~4月飛行試験 )
第4章:HAPSの実利用・産業応用の可能性
どうぞお楽しみに!
本ブログに関するお問い合わせは、下記窓口までご連絡、ご相談ください。
•弊社サイト:「https://www.sjett-lab.com/」の「Contact us」の入力フォームより入力下さい。
•電子メール:contact@sjett-lab.com

