エスジェットラボ合同会社
CO-CEO 高盛哲実
第2章:HAPSの代替え実験が可能な有人機
1. 高高度無人機の代替え実験が可能な有人機が必要な訳
現在、HAPS(高高度プラットフォーム)の機体そのものを商用ベースで購入したり借りたりすることはできません。一部のHAPS開発企業とは交渉次第で実験向けに機体を貸し出してもらえる可能性もありますが、試験内容に対して費用が非常に高額であったり、飛行計画をプロジェクトのスケジュールに合わせて調整するのが困難であったりするなどの課題があります。そのため、HAPSによる本番運用の前に、代替手段として有人航空機を使って成層圏環境下、もしくは成層圏環境下に近しい条件での実験を行うことが現実的な選択肢となります。成層圏に近い高度まで飛行可能な有人機を利用すれば、HAPS機体を直接用いずとも機上機器の動作検証やミッション手順のリハーサルが可能です。本章では、そのような高高度無人機の代替え実験が可能な有人機として代表的な機体を紹介します。
2. 代替え実験が可能な有人機
2.1. 調査対象とした有人機
HAPSの検討においては、成層圏に近い環境での実証や運用確認が重要となります。その際、実機HAPSに先立つ検証手段として活用されているのが、高高度飛行が可能な有人航空機です。
有人機は、搭載機器の評価や試験運用の確認を比較的柔軟に行えることから、HAPS関連技術の検討初期段階において有効な役割を担っています。以下では、こうした目的で利用されている代表的な有人機を取り上げ、その特徴を簡潔に整理します。
表2.1-1 調査対象とした有人機

2.2. G520NG(ドイツ GROB AIRCRAFT)

図2.2.-1 G 520 - GROB AIRCRAFT SE(ドイツ GROB Aircraft社)
https://grob-aircraft.com/en/g-520.html
G520はドイツのGROB Aircraft社が開発した高高度実験用有人機です。翼長33mにも及ぶ大型の単発ターボプロップ機で、最大約15kmの高度まで到達できます。航続時間は9時間程度とHAPSの連続飛行期間(数日~数ヶ月)には遠く及びませんが、時速約283kmの巡航速度や成層圏に迫る運用高度、そして約850kgと大きなペイロード搭載能力を備えている点が特長です。こうした 高高度・高速飛行と大容量ペイロードの柔軟性 から、HAPSミッションの実証実験に最も適した機体の一つとされています。実際に、エアバス社の太陽電池無人機Zephyrに搭載予定のペイロード機器試験にもG520が用いられています。また海外での飛行実験も可能とされており、日本国内での成層圏実験に貸し出す提案もありますが、まだ実績はありません。

図2.2.-2 G 520 - GROB AIRCRAFT SE(LOADING CAPABILITIES)
https://grob-aircraft.com/en/g-520.html
G520は当初から成層圏環境での各種実験を想定して設計された経緯があり、与圧キャビンの有無や機内温度管理など、顧客ニーズに応じてペイロード搭載方法を柔軟に選択できる構造になっています。高度約15kmでの飛行に耐えうる設計とカスタマイズ性により、通信中継機や観測センサーなどHAPS機体に搭載予定の機器を試験するプラットフォームとして有用です。
主要スペックを以下に示します。
表2.2.-1 G520NGの主要スペック

2.3. 飛翔 (JAXA)

図2.3.-1 JAXAの実験用航空機「飛翔」:
https://www.aero.jaxa.jp/about/pamphlets/pdf/hisho.pdf
「飛翔」は、JAXA(宇宙航空研究開発機構)が保有する高高度飛行試験用の双発ジェット機です。
セスナ社の中型ビジネスジェットCitation Sovereign(型式名:Cessna 680)をベースに、各種計測・試験装置を搭載できるよう改造した機体です。ジェットエンジン2基の推力により最大でマッハ0.8(時速約980km)という高速飛行が可能で、約14km超の高高度まで上昇できます。一方で燃料消費が多く航続時間は3.5~4時間程度と短くなりがちです。民間への貸し出しも制度上は可能とされていますが、運用上の制約が多く、また高速・高出力ゆえにHAPSが想定する成層圏滞空環境とは大きく異なる性能特性となってしまいます。例えば飛行速度が速すぎるため、上空で長時間ひと所に留まって観測・通信を行うHAPSのミッションには向きません。またターボファンエンジン機特有の運用コストや騒音の問題もあり、成層圏ミッションの代替試験プラットフォームとしては適合度が低いと言えます。
以上の理由から、「飛翔」は主にJAXA内部の宇宙航空技術研究の用途(例えば航空機騒音低減技術の実証など)で運用されています。一企業がHAPS関連の試験目的で利用するにはハードルが高く、実際問題としては前述のG520や後述の小型プロペラ機の方が現実的です。
「飛翔」の主要スペックを以下に示します。
表2.3.-1 飛翔の主要スペック

※ペイロードの搭載量は想定ミッションや改造内容によって異なるため一概に算出困難。
2.4. 【参考】Cessna 208 Caravan 等(共立航空撮影)

図2.4.-1 Cessna 208 Caravan(共立航空撮影の運用機)
https://www.k-air.co.jp/aircraft/
小型単発プロペラ機の代表例であるセスナ208キャラバンも、HAPS試験の簡易な代替プラットフォームとして利用されています。共立航空撮影株式会社など国内の航空測量会社が多数運用しており、翼長約16mの機体に測量カメラや通信装置などを搭載可能です。最大高度は約4,000m程度と成層圏(約20km)には遠く及びませんが、巡航速度は300km/h前後と比較的低速であるためHAPS機に近い飛行条件を一部再現できます。また地上支援設備が簡易で済み、運用コストも低いことから試験プラットフォームとしての手軽さは抜群です。実際に総務省が主導したHAPS関連の研究開発では、共立航空撮影が保有するCessna 208機を用い、高高度無人機に搭載予定の通信機器の接続試験を行った実績があります。都心近郊では調布飛行場など比較的小規模な空港で離着陸が可能で、機体や操縦士の手配も柔軟にできる点からスケジュール優先の実証実験に適したプラットフォームと言えます。
Cessna 208 Caravanの主要スペックを以下に示します。
表2.4.-1 Cessna 208 Caravanの主要スペック

上述のように、Cessna 208シリーズは高度・滞空時間の点ではHAPSの代替にはなりません。しかし安価で整備性が高く、かつ必要最低限の飛行環境を提供できる試験プラットフォームとして有用です。特に通信機器やセンサーの基本動作確認、インターフェース検証などは低高度でも実施可能な場合が多く、そうした初期段階の実証実験には手近な小型有人機が重宝される傾向があります。
2.5. 代替え可能な有人機のまとめ
高高度無人機(HAPS)の代替実験に利用可能な有人機として、ドイツ製のG520、高速ジェット試験機「飛翔」、そして手軽な小型プロペラ機の例を紹介しました。実際のプロジェクトでは、試験目的・予算・必要な飛行環境に応じてこれら代替機の中から最適なプラットフォームが選定されます。いずれの場合も、有人機による事前試験を重ねることでHAPS本番機によるミッション成功の確度を高めることが期待できます。
今回ご紹介した有人機の中では、ドイツ製のG520が最もHAPSの代替えとして望ましい機体ですが、海外メーカーとの交渉や日本までの移送、滞在場所の確保などの課題を解決する必要があります。
3. 今後の続編予定
なお、本記事はHAPS解説シリーズの第2章にあたります。今後、以下のようなテーマで続編を掲載していく予定です。
第3章:Zephyrの性能・技術開発状況・産業利用状況の調査
第4章:HAPSの実利用・産業応用の可能性
どうぞお楽しみに!
【過去のコンテンツ】
第1章:HAPSとは?成層圏を飛ぶ無人機の概要と最新動向
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